古代ギリシアでは、この「僭主(せんしゅ)」という言葉は頻繁に出て来ます。
そもそも、僭主とは何なのでしょうか?
ここでは、僭主政治について分かり易くまとめてみました!
僭主(せんしゅ)とは?
僭主とは、
天皇や王の血筋によらず、本来継承資格の無い人物が実力で君主の座を奪い取り君主となる者
のことを言います。
また、僭主による政治を僭主政治と言います。
僭主と呼ばれる君主、あるいは君主になろうとした者たちは世界中にいます。
そのほとんどが非合法なやり方で、何をもって僭主と呼ぶのかは判断が難しいところでありはます。
なので、一般的にはそれぞれの国の価値基準から僭主かどうか判断されます。
古代ギリシャの僭主
君主や政治家に僭主が最も多く使われた時代は古代ギリシアでしょう。
この時代の政治体制は、貴族が政治的権力を持ち平民を支配する貴族政が主流でした。
そこに平民による指示によって、政治的影響力のある僭主が登場してきます。
そして、合議制(ごうぎせい)を僭主は抑えて独占的な権力を振るったのです。
合議制とは、現代で言う内閣のようなもの。
この時代は合議制の大臣が全て貴族だったのです。
古代ギリシアの貴族
多くのポリス(都市国家)は、王が神話時代から正統な血統を引き継いでいるので、その支配を正当化していました。
これが、王政の時代です。
そして、その王政の時代から
君主を持たない共和制→貴族階級がポリスを支配する貴族政
へと移って行きました。
貴族は何も血統や出身地だけで決まるものではありません。
何よりも経済力が重要だったのです。
- 戦争の時に武器・防具・食糧などの軍需物資やその輸送手段を全て自腹
- 兵士の妻など家族の分も含めた兵役(兵士の給料)を負担
などが経済力を示す例で挙げられます。
しかし、平民でも交易などにより貴族階級に負けない経済力を持った裕福な市民がだんだんと増えて来ました。
一方、兵役を負担できなくなった没落貴族も少なくありませんでした。
その結果、今までは貴族が全て負担していた兵役を平民がだんだんと負担するようになりました。
生活に関わる戦争ならまだしも、他のポリスとの戦争の勝敗なんかは平民にとって直接的に関わりがありません。
兵役のお金払ってるけど、この戦争に勝って俺らにどんなメリットがあんの?
とポリス政治に対して、平民はよそよそしさを感じ不満が溜まって行きます。
平民の味方「僭主」
こんな中、
平民階級の利害を、もっと政治に反映させようぞ!
という意見が出て来ます。
そして、平民の支持をとりつけ、数の力で貴族階級が行っていた共和制を廃止させます。
ここで、個人の権力を意のままに使いこなせる君主が登場するのです。
我らが貴族たちにより独占されていた共和制なるものを、我ら平民に開放しようぞ!
というスタンスを彼らは取ったのです。
このため、僭主は王や官職・役職に就くこともありませんでした。
彼らを支持する者たちは、
テュランノス(支配者)様…!!
と彼らを呼んでいたそうです。
この「テュランノス」という言葉は、元々その言葉自体に価値判断を含みません。
そう考えると、日本語訳の「僭主」は非合法性が含まれている言葉なので、正確な翻訳とは言えませんね。
アテナイの陶片追放
実力を付けてきた平民階級と既得権益を守ろうとする貴族階級。
そんな軋轢の中で登場したのが僭主です。
このような時代の変化の中で生まれた存在であったため、アテナイのようなポリスでは
そのような者たちは独裁者だ!
と非難されました。
アテナイでは、貴族階級も平民階級どちらも含んだ市民団が成立していました。
その市民団全体によるポリス運営を行っていた結果、直接民主制が生まれたのです。
民主制で成功したアテナイのようなポリスからしたら、僭主政治を良しとは思えません。
なので、アテナイでは僭主の出現を防ぐために陶片追放(とうへんついほう)の制度を導入しました。
この制度についてさらに詳しく知りたい方は、
陶片追放とは?クレイステネスの改革を分かりやすく解説!
陶片追放(とうへんついほう)って、どういう制度だったの?という疑問に、僭主政治(せんしゅせいじ)も関連させてお答えした記事がこちらです!クレイステネスの改革の1つであった陶片追放について分かり易く解説しています。
こちらの記事も併せてお読み下さいませ。
移民が建設した歴史の新しいポリスでは、多くの僭主が出現しました。
僭主政治のありかたは本当に様々で、
私は王だ!
と自ら王を名乗って自ら君主を受け継ぐ者もいたほどです。
そう考えると、この僭主政治を行っていた時代は、良くも悪くも政治のあり方を考えさせられるきっかけとなったのではないでしょうか?
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参考:『僭主』