キュロス2世はアケメネス朝ペルシアの初代国王です。
彼の凄いところは古代エジプトを除いた全ての古代オリエント(中東)諸国を統一して大帝国を築いたところです。
キュロスはイランの建国者だ!
と現代のイラン人は褒め称えています。
そんな彼の功績とは一体何だったのでしょうか?
キュロス2世とは?
キュロスが生まれた時、当時のアケメネス朝ペルシアはメディア王国に付き従う小王国に過ぎませんでした。
メディア王国はエジプトや新バビロニアなどと並ぶ大国でした。
そんなペルシア王国の第7代王としてキュロスは即位したのです。
メディア王国への反乱
キュロス2世は大国メディアに反乱を起こしました。
その時、メディアの将軍ハルパゴスの裏切りもあり、メディアを滅ぼすことに成功します。
この時から統一王朝としてのアケメネス朝が始まったとされています。
この将軍ハルパゴスの裏切りには、実はとんでもなくえげつないエピソードがありました!
不吉な赤子キュロス
メディア王はある時に不吉な夢を見ました。
あの赤子であるキュロスだっけ?あの子は将来危ない存在になると思うのよ。だからハルパゴス、あの赤子を殺して来てちょうだい
と当時メディア王に従えていたハルパゴスはこのように命じられます。
王はああ言っているけど、心変わりして王の孫である赤子を殺した私を後々処罰するのではないか?
とハルパゴスは恐れます。
そして、代わりに王の家来であった牛飼いにキュロスを殺してもらおうよう預けたのです。
こんな赤子を私が殺さなければならないのか…。なんと残酷な。私の我が子は死産したというのに…
と哀れみ代わりにこっそりとキュロスを育てたのです。
メディア王の復讐
しかし、やがてこのことはメディア王の知るところとなります。
そして、ハルパゴスは真実を話したのです。
そういうことだったのか。ところで、ハルパゴスよ。そなたにはたしか息子がいたな?そなたの息子を王宮に連れて来てくれ
と王は怒りを表さず、ハルパゴスの13歳になる息子を寄こすよう命じました。
分かりました、陛下
そして、ハルパゴスは息子を王の元へ向かわせました。
ところが、その息子は殺され調理されてしまいます。
次に、王はハルパゴスを宴会に呼びます。
その材料を明かさぬままに、ハルパゴスに料理を食べさせたのです。
味はどうだったかな、ハルパゴスよ。料理を楽しんでくれたなら嬉しいのだが
美味しかったです、陛下
とハルパゴスは答えました。
そうかそうか
と言いながら王は遺体の残りをハルパゴスに見せ、
お前が今食べた肉は何の肉か分かったか?
と聞きました。
この時ハルパゴスは驚いた様子も見せず、
何の肉かは分かりました。私は王のなさることにはどんなことでも満足です
と答えて遺体の残りを持ち帰りました。
ハルパゴスの復讐
王はやがてこのことを忘れましたが、ハルパゴスの胸の中は王への憎悪でいっぱいでした。
ハルパゴスはその後も王に忠実に仕えましたが、その裏でキュロス2世と繋がりこう勧めました。
キュロスよ、メディアに反乱を起こさないか?
そして、キュロス2世は実際にメディアに反乱を起こしたのです。
この時、メディア王はハルパゴスをキュロス討伐軍の総司令官に任命しました。
ところが、ハルパゴスは当然ながらメディアを裏切ってキュロスを勝たせます。
そして、メディア王国は滅んだのです。
いかがですかな、陛下。自らが奴隷に成り下がる気分は?あなたが行って来た残虐な行いに比べれば、奴隷などまだマシには思いますがね
敗れて捕らえられた王の元にやって来たハルパゴスはこう言い放ちます。
くそっ、ハルパゴスめ!お前は最初から私を裏切っていたというのか!!お前だけは許さぬぞ…!!
と王はハルパゴスの行いを非難したのです。
リュディア王国の征服
さらに、キュロス2世はアケメネス朝ペルシアの精鋭部隊である1万人の兵を率いてリュディア王国に攻め込みました。
リュディア王国についての資料は少ないのですが、まるで神話物語のような有名なエピソードがあります。
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さて、キュロス2世はリュディア王国と2回戦い、2回目の戦いでリュディア王クロイソスを破ります。
そして、とうとうリュディア王国を征服したのです。
ヘロドトスによれば、
もちろんクロイソスは火刑(かけい)だ。殺してしまえ!
とその時キュロス2世はクロイソスを刑に処そうとしました。
アポロン様(ギリシャ神話の中の神)、どうかこの私めをお助け下さいませ…!!
とクロイソスが願うと突然雨が降り出し、なんと火を消してしまったのです。
ほぅ、こいつは使えるかもしれん
と思ったキュロス2世はクロイソスの命を助け、その後にクロイソスを参謀的な役割で仕えさせました。
その後も、キュロス2世はさらに現在のトルコのアジア部分であるアナトリア地方を付き従わせました。
新バビロニアの征服
そしてそして!
なんとキュロス2世は、当時の大国の一つであった新バビロニア王国も倒してしまいます。
当時のバビロニアの都市バビロンでは、バビロン捕囚にあったユダヤ人などの諸民族がいました。
バビロン捕囚って何?
と思った方は、
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強制移住させられた民よ、今からそなたたちは自由の身である!!
とキュロス2世はバビロン捕囚の諸民族を解放しました。
この行動が後世に理想的な帝王として語り継がれます。
旧約聖書の『イザヤ書』では、ユダヤ人を解放して帰国させたことからメシア(救世主)と呼ばれています。
また、新バビロニアのネブカドネザル2世によって奪われていたエルサレム神殿を
再建せよ
と命じています。
しかし、この再建には時間が掛かりました。
そして、完成を待つ前にキュロス2世はこの世を去ってしまいましたが、
キュロス様は我らを解放し、エルサレム神殿を再建して下さった。また、それ以降も我らの宗教に自由を与えて下さった。このご恩決して忘れません
とユダヤ人たちはアケメネス朝の統治下においては一度も反乱を起こしませんでした。
キュロス2世のその後
ヘロドトスによれば、キュロス2世は戦死したと言われています。
キュロス2世の次の後継者であるカンビュセス2世は、既にバビロンの統治などを命じられていたりしていました。
なので、政権移行は滞りなく行われたのです。
カンビュセス2世は残る大国エジプトを征服し、古代オリエントに統一帝国を築きました。
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参考:『キュロス2世』・『メディアのハルパゴス』