エンリル神は、古代メソポタミア神話の中で最も重要でよく知られた神の一人です。
彼は古代メソポタミア神話に登場するニップルの守護神であり、シュメールやアッカドにおける事実上の最高権力者でした。
エンリルはシュメール語で以下の事を指します。
- EN = 主人
- LIL = 風
そして、嵐や力を象徴することから以下のような異名を持ちます。
- 荒れ狂う嵐
- 野生の雄牛
絶対的な権力者として秩序と王権を体現したエンリルですが、
- 指導者でありながら裁かれる身となる
- 大洪水伝説を含め冷酷で残忍な人物
と神話の中では描かれており、全体を通して不名誉なエピソードが多いのです。
そんなメソポタミア神話の最高神エンリルとは、一体どんな神様だったのでしょうか?
『エンリル』とは?
エンリルは恐れ多い神とされ、その姿だけでなく光すらも(神々でさえ)見ることは叶わなかったと言われています。
ただし、エンリルは基本的に人間と同じ姿をしていたとされています。
角の生えた冠をかぶり、美しい衣服をまとい、神々の運命を記した天命の粘土板を手に持った長いひげの男性
と多くの文献では描かれています。
性格に関しては、喜怒哀楽が激しく短期だったようです。
また、自分の欲求に従い次々と破壊行為を起こすような神でもありました。
洪水や疫病などの天災の全ての原因が最高責任者であるエンリルにあったのだとか…。
エンリルの家族関係
エンリルの両親をまとめると以下のようになります。
- 天空神:アヌ
- 地母神:キ
そんな両親を持つエンリルは、なんと父親アヌから母親キを奪ってしまうのです。
そして、母親と近親相姦した時に生まれたのが「人間」だったのです。
人間を作り出した理由としては、神々の労働を肩代わりさせるためだったようです。
母親とも性交渉をするエンリルだったので、奥さんは1人ではなく3人います。
その3人の奥さんの中で有名なのがニンリル。
実は、エンリルにはニンリルとの成人向けな神話エピソードがあります。
エンリルとニンリル
処女であったニンリルを心配した母親は何度も彼女にこう忠告しました。
エンリルの目に留まると困るから、河で水浴びをしてはいけないよ
しかし、その母親の忠告を破りニンリルは聖なる河で水浴びをしていたのです。
そして、母親の忠告通りしっかりと若者エンリルに目を付けられ、ニンリルは強姦されてしまうのです。
このたった1回の行為で、ニンリルは月神シンを妊娠します。
この強姦の罪は神々の指導者エンリルとしての責任が問われました。
最終的には天界を追放されて冥界へと落とされたのです。
あろうことか、このとき被害者であるはずのニンリルは、エンリルを追って自ら冥界へ旅立ったと言われています。
エンリルの子供たち
エンリルはニンリルを冥界に何とか来させないようにしていたようです。
おい、門番!もしニンリルが俺を訪ねて来ても、絶対に居場所を教えるなよ
と冥界の門番に言ったり、正体を隠すために門番に姿を変えたりしました。
エンリルはどこかしら?
とエンリルを追って来たニンリルは彼を探していました。
そして、そんなニンリルをはじめは門番のふりをしていたエンリルは無視していました。
しかし、性欲に抗えずまた彼女と交わってしまうのです。
この時に出来た子供がネルガルです。
そんなネルガルは父親エンリルと似たような激しい恋愛をします。
ネルガルとエレシュキガルの恋愛エピソードについて詳しく知りたい方は、
「ネルガル」と「エレシュキガル」の大恋愛エピソードとは?
メソポタミア神話の最強カップルネルガル&エレシュキガル。この二人の出会いは最悪だったにも関わらず、最終的には神々をも巻き込む大恋愛となりました。そんな漫画のような恋愛展開が気になる方は、ぜひこちらの記事をお読みください!
こちらの記事をお読みください。
なんとエンリルはこの後も同じような事を2回も繰り返します。
姿を変えたエンリルに何度も惑わされるニンリルは、これら性行為の後に2人の神をまた孕むのです。
ギルガメシュ叙事詩
現存する最古の英雄物語の1つ『ギルガメシュ叙事詩』に登場するエンリルは、理不尽な決定によって主人公ギルガメシュの親友エンキドゥを死に至らしめました。
愛と美の女神イシュタルとギルガメシュの恋沙汰を巡って、エンキドゥはイシュタルを激しく罵倒し挑発的な行動を取ってしまいます。
そして、神々の会議の中で
エンキドゥを処するべきだろう
とエンリルは主張したのです。
エンキドゥは神の意に逆らえず死んでしまいます。
そして、親友の死の悲しみにギルガメシュは長く囚われてしまうのです。
そんな『ギルガメシュ叙事詩』のお話を詳しく知りたい方は、
『ギルガメシュ叙事詩』のあらすじを分かりやすく解説!
メソポタミア神話の中に出て来る、古代の冒険物語『ギルガメシュ叙事詩』ってどんなストーリー? ゲームfateシリーズの人気キャラクター「ギルガメッシュ」の原作のお話です。 元ネタを知りたい方は必見の記事です!
こちらの記事をお読みください。
エンリルと大洪水
現代に伝わる古代メソポタミアの洪水伝説は、以下の3つの説話から成り立っています。
- 『シュメール版大洪水伝説』
- 『アトラ・ハシース』
- 『ギルガメシュ叙事詩』
そして、その中の洪水伝説をまとめるとこうなります。
- エンリルの怒りによりもたらされた洪水
- その洪水からエアの機転と賢人が人類を救う
- 大洪水で流された世界は新しく生まれ変わる
そんな洪水伝説は旧約聖書の中でも「ノアの方舟」という形で登場します。
古代で共通した洪水伝説を持つノアの方舟について詳しく知りたい方は、
『ノアの方舟』と『バベルの塔』のあらすじを分かり易く解説
旧約聖書の『創世記』にあるノアの方舟の話は有名ですが、バベルの塔のお話を知らない人も多いのでは?ここで軽くどちらの内容もおさらいしておきましょう!また、ノアの方舟は本当に実在したのか?の謎にも迫ります!
こちらの記事をお読みください。
他のメソポタミア神話の神々についてご紹介した記事もありますので、
メソポタミア神話に登場する神々の特徴って?【神一覧あり】
メソポタミア神話の神々について詳しく書いています。最近では、都市伝説の中でもメソポタミア神話に登場する神々は注目されています。神のキャラクター紹介は、主にバビロニア神話の神々を参考にしてますが、他のメソポタミア神話の神々とも重なっていますよ!
よろしければ併せてお読み下さい。
参考:『エンリル』
コメントを投稿