『パイドン』とは?ソクラテスの死の直前に語った内容を要約

『パイドン』っぽい画像

プラトン著の『パイドン』は死刑宣告を受けた師であるソクラテスが最期の瞬間まで弟子たちと問答していた様子が描かれています。

ソクラテスが何者かについて詳しく知りたい方は、

こちらの記事をお読み下さい。

ここではソクラテスと弟子たちの問答がなぜ始まったのか、そして「」についての問答はどのようなものだったのかを見ていきます。

ソクラテスの死に駆け付ける弟子たち

ソクラテスの死刑執行に居合わせた人々の名は、

  • アポロドロス
  • クリトブロス(クリトンの息子)
  • クリトン
  • ヘルモゲネス
  • エピゲネス
  • アイスキネス
  • アンティステネス
  • シミアス
  • ケベス
  • パイドンデス
  • エウクレイデス
  • テルプシオン

などがいました。

めっちゃいる…!

この中のクリトンはソクラテスに死刑執行の前にここから逃げ出せと助言をしたことで有名です。

詳細は以下の記事にて書いていますので、

よろしければご覧ください。

居合わせた人数はこんなにいますが、

  • シミアス
  • ケベス

覚えていただきたいのはこの二人のみで大丈夫です!

ここではこの二人しか会話には登場しません。

ある時、ケベスがこんなことを言い出します。

ケベスっぽい画像

ソクラテスさん、どうして牢獄に入ってからイソップ物語を詩に作り替えたり、アポローン神を讃える歌を作ったりしているのですか?

ケベスっぽい画像

ソフィスト(古代ギリシアにおいて活躍したお金を受け取って徳を教える知識人たち)のエウエノスさんも不思議がっていました。どうぞ理由を教えてください

そうすると、ソクラテスは答えます。

ソクラテスっぽい画像

私がこの世を去る準備の一環である。夢で文芸に励めという教えが出てきたのでそれに従ったまでのこと

ソクラテスっぽい画像

そうだ、エウエノスにも伝えておいてくれないか。もし思慮ある哲学者なら出来るだけ早く私の後を追うようにと。しかしながら、自殺は許されないことだから彼は自殺しないだろう

人々画像

ソクラテスさん、それはどういうことですか?

弟子たちが次々と疑問を口にしたのでここからソクラテスの問答が始まるのです。

自殺禁止・冥府の希望

ソクラテスは言います。

ソクラテスっぽい画像

人間にとって死ぬことは生きることよりも例外なく無条件に善いことである。しかしながら、それを自ら行う自殺は神に対する冒涜である。そのため、私たちは他者が私たちを死に追いやってくれるのを待たねばならない

ソクラテスの言葉にケベスはあきれて笑ってしまいます。

その様子を見たソクラテスはなおも続けます。

ソクラテスっぽい画像

神々は我々を配慮する者であり、我々は神々の所有物の一つである。その所有物が勝手に自殺すると、神々は腹を立て、処罰を加えようとするだろう

ケベスはソクラテスに反論します。

ケベスっぽい画像

自殺禁止という部分は同意できますが、神々の元を、最も思慮ある哲学者が喜んで去る(つまり死ぬこと)というのはおかしくないですか?ソクラテスさん、あなたは自殺はいけないと言っているが、死は無条件に善いとも言っていますよね?

ソクラテスは答えます。

ソクラテスっぽい画像

冥界にはこの世を支配する神々とは別の神々がいる。その神々は賢くて善い神々である。そして、さらに冥界にはこの世の人々より優れた死んだ人々がいる。善い人々には善い何かが待っているという希望を私は持っているのだ

シミアス(弟子の一人)が言います。

シミアスっぽい画像

一体どういうことでしょうか?詳しく教えていただけますか?

ソクラテスっぽい画像

つまり、哲学者はただひたすらに死ぬこと、死んだ状態にあること以外の何も実践しない。哲学者の全人生をかけて死以外の何も望んで来なかったのだから、死を前に怒ることなどおかしいということだ

シミアスは笑います。

シミアスっぽい画像

確かに、哲学者が死人同然の生き方をしていることは認めます

しかし、ソクラテスは言います。

ソクラテスっぽい画像

哲学者たちは自分たちが死人同然の生き方をしている意味を分かっていない

魂と肉体の分離・哲学者の生き様

ソクラテスっぽい画像

死とは魂の肉体からの分離である

ソクラテスの言葉にシミアスは同意します。

ソクラテスっぽい画像

哲学者は飲食や装飾品などに追求せず、魂に関心を持ち、できるだけ魂を肉体の交わりから解放する者である。だから多くの人々に肉体的快楽を味わうことのない死人同然の人たちだと思われている

シミアスっぽい画像

確かに

ソクラテスっぽい画像

知恵の探求や獲得において頼りになるのは思考のみであり、肉体の感覚は邪魔であるため、哲学者の魂は肉体から逃げ出し、自分自身だけになろうと努力するのだ。正義、美、善や物事の本質は邪魔な肉体的感覚を排除して、純粋な思考のみで追及されるべきものである

シミアスっぽい画像

なるほど、分かります

ソクラテスっぽい画像

つまり、生きている間に本当の知恵を獲得することなど出来ないのだ。生きている間はできるだけ肉体と交わらず、汚染されずに清浄なまま神が我々を解放する時を待つことしか出来ない。この魂を肉体から出来るだけ切り離し、魂で生きるように習慣づけることがカタルシス(浄化)である

シミアスっぽい画像

確かにその通りですね

ソクラテスっぽい画像

真の哲学者は死ぬことを恐れない。もし死ぬ間際に怒り嘆くものがいればそれは哲学者ではなく、肉体を愛する者であったことの証拠である

ソクラテスっぽい画像

快楽、苦痛、恐怖などの肉体的な感情を尺度にして徳を理解するのではなく、知恵を基準にしてはじめて勇気、節制、正義などの真実の徳が生まれるのだ。これもある種のカタルシス(浄化)であり、知恵は浄化を行うためのある種の秘儀である

ソクラテスっぽい画像

大昔から浄めの秘儀を行ってから冥界に行くものは神々と共に住むと言われているし、私の考えではそれは正しく哲学した人々のことであり、私もその仲間に加わろうとあらゆる努力をしてきたつもりである。だから、私は死を前にしても苦しまず、冥界に対して希望を持っているのだ

魂と肉体を分けて考える

ソクラテスは魂と肉体を分けて考えており、多くの人間は肉体の欲望に染まってしまっていると思っています。

この肉体の欲望から解放を望んでいるのが哲学者であり、肉体の欲望からの解放には思考が必要だとしています。

しかし、死は無条件に肉体と魂を分離することが出来るので、ソクラテスにとって死は恐れる事ではないとしています。

しかし、その後に弟子のケベスにより、

ケベスっぽい画像

肉体と魂が分離しても魂が死なない(魂の不死)となぜ言えるのですか?

と反論があります。

これにより、ソクラテスと弟子たちは魂の不死についての議論を深めていきます。

「魂の不死」についての問答

ソクラテスの「魂」についての考え方に弟子であるケベスは反論します。

ケベスっぽい画像

魂は肉体から離れると滅びるのではないですか?魂が肉体から分離しても存続し、何かしらの力と知恵を持ち続けることが出来るのはなぜでしょうか?

ソクラテスっぽい画像

なるほど、そのような考え方も確かにある。では、魂は不死であるのかどうかを議論しようではないか

反対し合うものは循環している

ソクラテスはケベスに言います。

ソクラテスっぽい画像

美と醜、正と不正などのように性質と反対物は相互に生成し合う関係(美しいものがあるから醜いものがある。美がなければ醜は生まれない。その逆もまた同様である)にあり、生と死も同じである

ソクラテスっぽい画像

死者は生者から生まれ、生者は死者から生まれるという循環があるのだ。もし循環がなく一方通行なものであれば、やがて全ての物は死んでしまうことになる

「想起説」による証明

ケベスがソクラテスに言います。

ケベスっぽい画像

ソクラテスさんがよくおっしゃっている想起説は魂が人間に入る前に存在していたことが前提ですよね?

すると、シミアスが口をはさみます。

シミアスっぽい画像

想起説って何?ちょっとど忘れしちゃって…。なぁケベス、思い出させてくれよ

ケベスっぽい画像

あなたって人は…。はぁ…。想起説とは、人間にはあらかじめ知識が備わっていて、新しく知識を得るのではなく、失った知識を想起(思い出す)しているにすぎないという説です

ケベスっぽい画像

つまり、人々は上手に質問されれば、どんなことについても自力で答えられるようになるということになります

ソクラテスがシミアスのために補足をします。

ソクラテスっぽい画像

例えば私たちが整った石材や木材を見て、「等しさそのもの」を認識したり、ガタガタの石材や木材を見て「不足している」と感じるのは、感覚を働かせる以前、つまり生まれる前に「等しさ」が一体何であるかという知識をどこかで得ているからである

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しかし、その知識を私たちは生まれる時に忘れてしまっているのだ。そして、生まれた後、感覚や知覚をきっかけにして忘れてしまった知識を再発見していく作業が想起である。つまり、我々の魂は生まれる前から存在していることになる

シミアスっぽい画像

なるほど…!分かりましたソクラテスさん!

シミアスは納得していますが、ケベスはどうやら納得していません。

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しかし、想起論から分かることは人間の生まれる前に魂が存在することのみであって、人間の死後も魂が存在している証明にはなりません

ソクラテスは答えます。

ソクラテスっぽい画像

先ほど言った生と死の相互循環による生成が証明されているのであれば、生前に魂が存在しているのであれば、死後にも魂が存在することになるが…。まぁ、おそらく君たちはもっとこの『魂の不死』についての議論がしたいのだろうな…

ケベスっぽい画像

はい!よろしくお願いします!

「魂と不死」による証明

ソクラテスはとある定義をします。

ソクラテスっぽい画像

合成されて出来たものは分解することが出来るが、非合成的なものは分解されない。そして何者であるかを持たないものが「合成的」であり、それを持たないものが「非合成的」である

そして、さらにこう続けます。

ソクラテスっぽい画像

例えば、「美」そのものは何者であるかを持つ「非合成的」なものであるが、「美しい人間」は何者であるかを持たない形だけの「合成的」なものである

ケベスっぽい画像

なるほど

ソクラテスっぽい画像

何者であるかを持つものは、深く考えることでしか捉えることが出来ないものであるのに対して、それがないものは、感覚で捉えることが出来る。「美」は考えの中にあるが、「美しい人」は視覚という感覚で捉えることが出来るだろう

ここから、『魂の不死』についての話が始まります。

ソクラテスっぽい画像

さて、では「魂」と「肉体」はどちらに当てはまるだろう。もちろん、「魂」は感覚で捉えることが出来ないので、何者であるかを持つ「非合成的」側面を持っていると言えるだろう

ソクラテスっぽい画像

それに比べて「肉体」は感覚で捉えることが出来るので、何者であるかを持たない「合成物」である。先ほど合成されるものは分解されるが、非合成のものは分解することが出来ないと結論が出ているので、「魂」は分解されないはずだ

さらに、魂と肉体についてこうも言っています。

ソクラテスっぽい画像

また、「魂」は神的・支配的な性格をもち、「肉体」は奴隷的・非支配的な性格であることも特徴だろう

ケベスっぽい画像

分かります

ソクラテスっぽい画像

もし「魂」が純粋な姿で「肉体」を離れることが出来たならば、神的なものや不死なものの方へと向かい、神々と共に過ごし幸福になるだろう

ソクラテスっぽい画像

しかし、「肉体」の欲望・快楽に囚われた「魂」は純粋な姿で解放することが出来ず、墓の周りをうろつき、やがて獣の種族などの中へと入っていくだろう

ソクラテスっぽい画像

また、習慣や訓練によって徳を実践してきた人々の「魂」は同じ人間の種族などへと生まれることが出来るが、神々の種族に仲間入りが出来るのは哲学を行った全く浄らかな者だけである。哲学者の「魂」は神的なものの元へと到達できるだろうし、何も恐れることはない

「魂の不死」とは?

ソクラテスは魂と肉体を切り離して考えています。

肉体は滅びる(つまりは死ぬということ)はあっても、魂は滅びることはないとしています。

肉体が滅び、魂が肉体から分離する時に、肉体の欲望に染まっていない純粋な魂であることが大切であるとしています。

この純粋な魂を目指すことこそが、哲学者なのだとソクラテスは言っているのです。

シミアス・ケベスによる反論

ソクラテスが「魂の不死」について語った後に弟子の二人が反論します。

ソクラテスの「魂の不死」に対する話を聞いた弟子たちに長い沈黙が訪れた後、ソクラテスの弟子であるシミアスケベスが二人だけで何やら話しています。

ソクラテスっぽい画像

何を話しているんだ?疑問があるなら尻込みなどせず遠慮なく行ってほしい

ソクラテスが促すとシミアスが答えます。

シミアスっぽい画像

僕もケベスもそれぞれに疑問を持っていて、それをソクラテスさんに質問したいのですが、こんな不幸な時にそれをしてもいいものか迷っています。ご迷惑にならないでしょうか?

ソクラテスはそれを聞いて笑いました。

ソクラテスっぽい画像

私はアポローン(ギリシア神話の神)の召使いである白鳥が死を前にして神の元へ行けると歌い喜ぶような気持ちでいるので、何でも言ってくれて大丈夫である。どうぞ気軽に質問してくれないか?

ソクラテスに促されてシミアスは自分の考えを述べるようになりました。

シミアスっぽい画像

僕の考えとしては「肉体」と「魂」の関係が「竪琴・弦」と「ハルモニア(調和・和音)」のようなものだと考えます

シミアスっぽい画像

「魂」が「肉体」の諸要素の混合・調和として成り立っているのだとしたら、「魂」はむしろ「肉体」が分解するより先に直ちに滅亡してしまうのではないでしょうか?

シミアスに続き、ケベスも自分の仮説を披露します。

ケベスっぽい画像

僕は「肉体」と「魂」の関係は「衣服」と「機織り職人」のような関係だと考えます

ケベスっぽい画像

「機織り職人」が多くの「衣服」を着潰した後に最後の「衣服」だけを残して死ぬのと同じように、「魂」は幾つもの「肉体」を着潰してから、最後に「肉体」を残して滅んでしまうのではないでしょうか?

議論の先が見えずに周りは陰鬱な雰囲気が漂いだしました。

すると、ソクラテスはいつものようにパイドンの頭を撫でてこう言いました。

ソクラテスっぽい画像

人にとって言論を嫌うことよりも大きな災いはない。なので皆、言論嫌い(ミソロギア)に陥らないようにしなくてはならない

シミアスへの回答

ソクラテスっぽい画像

シミアスの調和説についてだが、まず「魂」が「ハルモニア(調和)」であり、「肉体」が「竪琴・弦」であるとするならば、「肉体」が「魂」より先に生じていることになる。「竪琴・弦」がなければ、「ハルモニア」は生じないからだ

ソクラテスっぽい画像

しかし、それならば先ほど私が言っていた想起説と矛盾する。想起説は「魂」は「肉体」の前に生じているからだ。シミアス、君はハルモニア説と想起説どちらの方が説得力があるものだと思う?

シミアスっぽい画像

…想起説です

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そうだろう。また、ハルモニア説にはまだ矛盾がある。調和とは構成要素のあり方に依存しているが、「魂」にそのような性質があるのであれば、「魂」が「肉体」に命令が出来るのはおかしいだろう

シミアスっぽい画像

そうですね

ソクラテスの経験談

続いてケベスの仮説に関してソクラテスは長い間考え口を開きました。

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ケベスの指摘は「魂」の生成・消滅についての原因を全体的に徹底して論議することを要求している簡単ではない質問である。なので、まずはそういう事柄についての私の経験を話すことにしよう

ケベスっぽい画像

お願いします!

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若い頃の私は自然についての研究に熱中していた。「万物の原因」が何なのかを求めていたのだ。私はそれらが法則性の寄せ集めという説明では納得できなかったのだ

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ある時、アナクサゴラスの書物に「万物の原因」は「ヌース(理性)」であると説明されていると聞き、大喜びでその書物を手に取った。しかし、個々の事物や現象を説明する段階になると空気や水といった別のものに原因を帰するので、私は大いに失望した

ソクラテスっぽい画像

こうして私は「万物の原因」を自分で発見することも他人から学ぶこともできず、「第二の航海(次善の策)」に乗り出すことになったのだ

仮設(ヒュポテシス)法

ソクラテスっぽい画像

私は「太陽を観察して目を盲目にしてしまう人々」がいるように、「事物を感覚によって直接触れようとすると魂が盲目になってしまう」と考えた。そこで感覚ではなく、「言論(ロゴス)」を重視することに決めたのだ

ソクラテスっぽい画像

「美そのもの」や「大そのもの」といった「固有の本質」(形相)が存在するとう仮設を立てた上で、この言論と調和するものだけを真と定め、そうでないものは真ではないとすることが「最も安全確実な答え」であると私は考えた

ソクラテスっぽい画像

例えば、美しいものは「美そのもの」を持っているから美しいのであって、その他の原因は考えられないとしたのだ

ケベスっぽい画像

なるほど

ケベスへの回答

ソクラテスっぽい画像

例えば、シミアスはソクラテスより大きいがパイドンよりは小さいとした場合、シミアスはソクラテスの「小」という形相に対しては「大」という形相を持つが、パイドンの「大」という形相に対しては「小」という形相を持つことになる

ソクラテスっぽい画像

一見すると、シミアスの形相は変質しているように見えるが、そうではないのだ。形相は変質するのではなく、退却するのだ

ケベスっぽい画像

どういうことですか?

ソクラテスっぽい画像

そうだな…。例えば「熱」と「冷」の関係を見てみよう。「熱」の属性を持つ「火」は「冷」が迫ると退却するが、「冷」の属性を持つ「雪」は熱が迫ると退却する

ソクラテスっぽい画像

つまり、形相は自分の持つ特徴・性質だけではなく、自分と反対的な形相の特徴・性質を排除する特徴・性質(「非○○」や「不○○」)も持っているのである

ソクラテスっぽい画像

例えば、「奇数」という形相を持つ「三」は「非偶数的」であるというように

「魂の不死」の最終証明

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では、ここで君たちに問おう。身体のうちに何が生じれば「生」をもたらすか?

ソクラテスの問いにケベスは答えます。

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「魂」です

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では、「魂」には「生」という形相を持っていることになる。では、「生」の反対は何か?

ケベスっぽい画像

「死」です

ソクラテスっぽい画像

ということは、「生」という形相を持っている「魂」はその反対的な性質の形相である「死」を排除する性質である「不死」の性質を持っているはずである

ケベスっぽい画像

な、なるほど!

ソクラテスの証明にケベスも同意するようになりました。

ソクラテスっぽい画像

では「魂」に「死」が迫った場合を考えてみよう。先ほどの議論のように、形相は変わるわけではなく、ただ退却するだけであるので、「魂」は滅びるのではなく「死」が退却し、冥界において存在するのだ

ソクラテスの言葉にケベスもシミアスも頷いたのです。

ソクラテスの最期

「魂の不死」について語り終わったソクラテスは死後の世界について色々述べた後、遂にソクラテスの死の時間がやってきました。

日暮れに沐浴を終えたソクラテスの元に刑の執行人がやってきました。

ソクラテスっぽい画像

時間か…。クリトン、毒薬(毒ニンジン)を持ってきてくれ

クリトンっぽい画像

まだ日が沈んでいないんだから、急がなくてもいいんじゃないか?

ソクラテスっぽい画像

いや、刑を遅らせることを儲け者だと考える生に執着した人にはなりたくないんだ

ソクラテスの言葉を聞いてクリトンは使いに毒薬を持ってくるように言います。

ソクラテスは上機嫌に毒薬を受け取り、神々に祈りを捧げてから、平然とそれを飲み干しました。

その後、ソクラテスは執行人の指示通り、歩きまわり、足が重たくなってから仰向けに横たわりました。

そして、クリトンにこう依頼しました。

ソクラテスっぽい画像

アスクレーピオスに雄鶏一羽の供え物をするように

これがソクラテスの最期の言葉でした。

アスクレーピオスはギリシャ神話に登場する名医で後に神にもなり、医学の象徴とされている人物でした。

そんなアスクレーピオスについて詳しく知りたい方は、

こちらの記事をお読み下さい。

クリトンっぽい画像

他に言うことはもうないのか?

とクリトンが尋ねますが、ソクラテスの返事はありませんでした。

しばらくして、絶命したソクラテスの口と目をそっとクリトンが閉じました。


『パイドン』について文庫でより詳しく読みたい方は、

パイドン-魂の不死について (岩波文庫) Kindle版
人間のうちにあってわれわれを支配し,イデアを把握する力を持つ魂は,永遠不滅のイデアの世界と同族のものである.死は魂の消滅ではなく,人間のうちにある神的な霊魂の肉体の牢獄からの解放である-ソクラテスの最期のときという設定で行われた「魂の不死」についての対話.『国家』へと続くプラトン中期の代表作.

こちらもぜひ読んでみて下さい。

ソクラテス関連の記事をここで読んでいれば、難解なこの文庫もきっと読み易くなるはず!


参考:『パイドン

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